ドゥーン(dún)はゲール人(ケルト人の一派)が紀元前から築いた丘陵砦で、要塞型避難所または防御集落として使用される土工の一種であり、時には石造りの建築物(ラウンドハウス)でもあった。 アイルランド語のdúnまたはスコットランドのゲール語のdùn( "fort"つまりは「要塞」を意味する)、オールドウェールズ語のdin(ウェールズのdinas「都市」)とほとんど同義である。 同じような遺構はアイルランドとスコットランド西部に数多く残っているが、その中でもドゥーン・エンガスが最も有名であろう。 波が激しく打ちつける断崖に築かれたそれは二重ないし三重の石塁を巡らせ、内郭には石積みの城壁と小さく口を開けた城門が佇んでいる。 ヨーロッパ城郭の見どころは石垣だけに石材を用いる日本の城とは違い、城郭の主要部分の多くを石で以て形成するところにある。石灰をはじめ鉱物の産出量が日本とは比べ物にならないため、木材加工よりも石材加工に優れていったのだ。
(続きをクリックで表示)
有史以前の遺跡の中では特別に大きく、最外壁は約6ヘクタール(14エーカー)の面積を誇る。 防衛処置としてもっとも離れた石塁の内周に鋭い石の逆茂木*1が密集しており、敵が慌てふためいている間に投石や矢を射掛けて倒していたと考えられる。 城郭の主構造部分が石材によって築かれた姿は荘厳さすら感じるほどで、島に上陸した折にはその潮風に、その風景に、古(いにしえ)の影を見るかもしれない。